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ダブルケア月間2024 基調講演②

植木:はい、ありがとうございます。興味深い話でこんなこと知らなかったみたい話もありましたけど、相馬先生、まずはありがとうございます。では、引き続き、今度は渡辺先生の方にお話をいただきたいなと思います。ここからは進行が実行委員の野島さんにバトンタッチです。野島さんお願いします。

 

野嶋:渡邉先生、2023年に「子育てと介護のタブルケア」を出版されて、渡邉先生自身がダブルケアについてどのようにお考えかというのを、一緒に編集に参加させていただいたんですけど、聞く機会がなかったので、これを機会にお話しいただければと思います。渡辺先生、よろしくお願い致します。

 

渡邉:はい、よろしくお願いします。

 

野嶋:渡邉先生は、そもそもタブルケアを知ったタイミングっていうのは、どのようなタイミングだったのか教えていただけますか?

 

渡邉:はい、先ほどちょっと相馬先生からもお話がありましたように、私はですね、元々は社会福祉の中の高齢者の福祉、特に認知症の方とか、そのご家族の支援、それからケアマネジメントに関心を持っておりました。実際に大学を卒業してから四年ほど地元の千葉県の特別養護老人ホームで働いていた経験がございます。当時はまだ介護保険が始まる前だったんですけれども、ちょうどショートステイのご利用を希望されてるご家族のところに行きましたところ、まだ20代の若いお母さんだったと思うんですが、2人の2歳か4歳ぐらいの女の子の育児をしながら、若年性の認知症の姑を介護しているケースに直面しました。お子さんが、面接中にお母さんの真似をして、認知症の姑の介護に関わろうとしている姿がすごく印象に残っています。このような育児の状況と認知症の介護が併立している状況というのが初めてだったもので、すごく衝撃に残っています。どう支援したらいいのかというのがずっと自分の心の中にありました。今思えば、それがダブルケアとの出会いだったかなと思います。実際にそのダブルケアという言葉を知ったのは、もちろん、相馬先生と山下先生のご研究の中で言葉が、社会福祉士のカリキュラム改正において、ダブルケアっていうキーワードが入ってきまして。そこで改めて認識したということがございました。

 

野嶋:ありがとうございます。ダブルケアを実際に体験して、その後、言葉を後から知るっていう感じでよろしかったでしょうか?

 

渡邉:はい。そのような経緯でございます。

 

野嶋:ダブルケアという言葉を知って、先生は知る前と知った後で、何か変化がございましたか?

 

渡邉:やはりダブルケアって言葉を聞いた瞬間、先ほどのケースが、自分の中で思い出されまして。それがダブルケアなんだと、言葉とそのケースっていうのが繋がってきたっていうのがございました。自分は認知症の方ご本人がこうしたいと思っても、なかなかご家族の都合もあって、それができなかったり、またご家族の都合があって、認知症の方がこうしたいということができなかったりといったご家族内でご家族と認知症の人のそれぞれの意向を調整していくプロセスに関心をもっていました。、なんとかご本人とご家族にとって、ウィンウィンになるような支援の仕方というのはないのかなっていうのが、ずっと自分の中の課題でした。ご家族の方のご負担とか、ご家族の方がこうしたいと思っていることの中を考えるときに、先ほどの育児をしながら姑を介護している先ほどのケースが、頭をよぎりました。自分の中では認知症の人の介護を行うご家族の支援をイメージする時に、重要な一つの視点になってたっていうのは、言葉を知る前からありました。

 

野嶋:(ダブルケアという言葉を)知って、ダブルケアという言葉の力、知るっていうことを今、私たちみんなで(ダブルケアの認知度を)広げようとしてるんですけれども、(言葉の力を)実感されたところはありますか?

 

渡邉:先ほど野嶋さんからご紹介いただきました図書(「子育てと介護のダブルケア」)の出版の前に、野嶋さんと植木さんにもご協力いただきながら、事例調査をして事例をたくさん集めている時に、言葉の力というのを実感いたしました。それはですね、「自分がどうしてこんなに大変なんだろうか」っていうことでインターネットで検索してダブルケアという言葉が出てきて、「あ、私はダブルケアだったんだ」みたいなとこですごくホッとしたりとか、「私一人じゃなかったんだ」みたいなことを感じたって事例がたくさん出てきました。やはり言葉の持つ力で、私自身もそれによって実はいろんな人たちとも繋がれて、今日の機会を頂けてるっていうのはあると思うんですけれども、それは本当にすごい力を持ってるんだなっていうのは、そういったことを通しながら、今も実感しております。

 

野嶋:ちょっと話が前後してしまって申し訳ないんですけれども、今ダブルケアの研究っていうお話がありましたが、研究をするきっかけを教えていただけますか?

 

渡邉:はい、2019年の10月頃だったと思うんですけれども、東京都の杉並区で高齢者支援とか子育て支援の活動を行っているソーシャルワーカーの森安みかさんからダブルケアの当事者支援の活動を行っている室津瞳さんをご紹介いただきました。ダブルケアラーの声を集めて、より良い支援を考えていきたいという、熱い思いをお話しいただきました。また、先ほどお話した自分が昔体験したケースと重なって、いい機会を頂けたってことをぜひ協力させていただきたいということになりました。そして、武蔵野大学の方の研究費で事例を集めていきましょうということで、植木さんや野嶋さんにご賛同いただきまして、2020年、まだまだコロナが大変だった時期だったんですけども、オンラインでミーティングを重ねながら、事例の収集と行っていたということがございました。

 

野嶋:前の話と被るところもあると思いますが、研究して渡邉先生が変わったところというのは他にもありましたでしょうか?

 

渡邉:それまでは先ほどお話したケースだけだったんですけれども、多くのダブルケアの経験者の人と関わることができました。たくさんの話を伺うことができたっていうのは、もう本当に自分の中では大きく変わったことと言えます。改めて認知症の人やそのご家族の支援に関するさまざまなことを考えていくときに、事例をご提供いただいた皆さんや、その過程の中でお会いした方々のいろんな声が自分の中で蘇ってきます。「この場合はどうだったんだろうか」とか、「この場合だと、やっぱりうまくいかないのかもしれない」など、そういったことを自分の研究、考えに深みを与えてくださるような、そういった変化っていうのは、自分の中にはあったかなというふうに思っております。

 

野嶋:そちらの研究の結果をまとめたものがこの本だと思いますけども、こちらの本が出版された経緯などもお話いただければと思います。

 

渡邉:はい、2019年に研究を始めてから、だいたい事例が集まって報告書を作った後に、今後の研究をどうするかっていうところを皆さんとお話ししているところだったんですね。その時に、ちょうど相馬先生と山下先生が「ひとりでやらない育児・介護のダブルケア」という本を出版されるということで、室津さんが出版の記念パーティーに出席された際に、相馬先生にこの件をお話されたところ、相馬先生から実際の声を社会に伝えて欲しいというようなご助言をいただきました。そのお話を受けて、一緒に研究やってきたメンバーたちと、そうしようみたいな話になりました。それを実現するうえで、私のできることは何かということを考えました。皆さんのこの思いを、事例を提供していただいた方も含めてそれを社会に形として出していけることができたら、これはダブルケアラーの皆さんたちの励みというか、力付けていくような一つのきっかけになるのかもしれないと思って、それをお手伝いしたいと思いました。相馬先生と山下先生が作られてきたネットワークや、その中で培ってきた繋がりだとか、ダブルケアという言葉を通して勇気づけられていた皆さんたちの力っていうのを、制作の中で本当にすごく感じました。そういった中で、みんなで作ったっていう形で、本当にたくさんの方にご協力いただきまして、山下先生、相馬先生も含めてなんですけども、(本が)できたっていうのはすごく自分にとっては、すごく誇れる一つの仕事だったかなという風に、今も思っております。

 

野嶋:すっごく温かくて熱い集まりだったと私も思います。本当に参加できて嬉しかったです。こんな風に本の形になったのも本当に嬉しく思ってます。ありがとうございます。では、最後に、この本が出た研究結果で先生がわかったこと、これから追及したいことを一言お願いいたします。

 

渡邉:はい、ダブルケアっていうことをテーマにして、メインに研究した経験というのは、この機会だけでした。しかし、自分が今までやってきたこととつなげていきながら、じゃあその気づきが何であったのかということをなんです。日本の社会福祉の制度というのは、いわゆる縦割り、高齢者とか子どもとか貧困・低所得、それから障害っていうような形の制度の成り立ちをしているんですけども、こういった育児と介護っていうのが、同時に発生するような状況の中で、どういうふうにそういったご家庭を支援していたいのかっていうのは、まだまだ、各地域の中で模索しているところかなと思います。どういったシステムを作ったり、あとは支援者自身がどういう考え方でどういうことに関わっていけばいいのかということを、自分が今までやってきたことも踏まえて、今後もやっていきたいなというように思っています。その中で、どうしても介護、育児というのを一身で受けてしまう、そういったことが社会の中で、当たり前のようにされてしまうというような、それを日本の文化的背景で言っていいかどうかわからないんですけど、そういった社会的な構造の問題みたいなことにも、自分なりに今後も考えていきたいなというふうには思っております。

野嶋:渡邉先生、ありがとうございました。それでは、植木さんにバトンタッチします。

 

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