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ダブルケア月間2024 基調講演①

収録日:2023年12月19日(火) 

 

 

 

みなさんこんにちは。ダブルケア月間実行委員会でございます。

ダブルケア月間2024実行委員会主催の基調講演ということで、今日はずっとお話を聞きたかった二人の先生をお呼びして座談会を開いていこうと思います。それではお二人の先生の自己紹介からお願いたいと思います。

 

相馬:みなさまこんにちは。横浜国立大学の相馬直子です。よろしくお願いします。

渡邉:みなさんこんにちは。武蔵野大学の渡邉浩文と申します。よろしくお願いいたします。

 

植木:ずっと熱望して、3年目にして実現した座談会でございます。では、ここからはまず冒頭、相馬先生からのお話を、実行委員の東さんが進行してお聞きします。その後、渡邊先生のお話を実行委員長の野嶋さんと一緒にお話ししながら進めていき、最後は私、植木と八幡さんで、お二人の先生方にお話を聞いていこうと思いますのでどうぞみなさまお付き合いいただければと思います。

ここからはバトンタッチして東さんお願いします。

 

:ダブルケア実行委員の東です。よろしくお願いします。

早速なのですが、私は2012年に相馬先生がダブルケアの研究を始めるというところで、その調査研究のお手伝いをすることでダブルケアということを知ったのですが、そもそも先生がダブルケア、子育てと介護の同時進行をダブルケアという名称を付けて研究されようとしたきっかけは何だったのでしょうか。

 

相馬:このダブルケアという言葉は、2011年の3月11日の東日本大震災の直後に子育てと介護が重なっていた横浜に暮らす友人の口から出た言葉だったのですね。「子育てと介護、ダブルなんだよ。」ということで、東日本大震災の後の計画停電ですとか買い物もままならないような状況の中で保育園の送迎や乳幼児の世話と、あと親の通院の付き添うなどがまさに育児と介護のダブルケアという言葉は、この東日本大震災と共に生まれた言葉でした。

 

研究としては、2009年くらいから東アジアの韓国、台湾、香港の先生方と育児と介護の政策について共同研究してきました。その中で、晩婚化や晩産化と高齢化が進む東アジア諸国の中で政策だけでなく、この育児と介護が重なることが、東アジア共通の社会的リスクになっていくのではないかという議論がでまして、その実態分析の研究などもこれまであまりなされてこなかったので研究としても着手していくことになりました。

 

:東日本大震災がきっかけとなってのダブルケアという言葉なのですね。初めて知りました。なんかすごい感慨深いなって思ったのですが、このダブルケアの調査をやってみて、もともと先に想定というか予測みたいなところはあったと思うのですが、実際にその調査研究を進めていくうえで、思っていたものとは違ったとか、結果についてどう思われていますか。

 

相馬:まず、育児と介護が重なるという実態について先行研究がほとんどありませんでした。ただし、先駆的なものとして、川端美和さんの育児と介護が重なる実態を知ってほしいというようなウェブ上での発信、また先行研究で育児と介護の複合課題という調査レポートがありましたので、それを踏まえて調査の項目なども設計したことを覚えております。

また、実際にダブルケアの当事者の方たちにどこでお会いできるのかというような問題もありました。

 

横浜市の全面的なご協力をまずいただきまして、地域子育て支援拠点や、子育て支援の現場に行きまして、子育てと介護が重なる人にアプローチしました。けれどもやはりダブルケアの方は忙しすぎて地域の子育て支援センターや、子育て広場といったようなところにはなかなかいらっしゃりにくいのかなということも気付きましたし、介護の方の現場の方たちと密に連携していくことの重要性というのも最初の段階から痛感していたことでした。またこのダブルケアの調査研究というのは研究者だけが取り組むものではなく、やはり地域のつながりですとか、地域の支援の資源のことを熟知されている地域子育て支援の現場の方たち、また介護支援の現場の方たち、地域の様々な取り組みをなさっている団体の方たちのご協力なしではできないというようなことを共同研究の山下順子先生とも話していました。

 

なので、社会福祉協議会ですとか、地域のネットワーク形成に詳しい方、そして当初はNPO法人のシャーロックホームズ、あるいは全国のマミーズ・サミットのネットワークをお借りして、携帯調査などいろいろな実態調査を試行錯誤して進めてきました。その中でダブルケアというのはやはり団塊ジュニア世代アラフォー世代の一つの大きな社会課題であり、その問題が発見されていないのではないかと感じました。

 

:私がそのNPO法人シャーロックホームズの方で、メルマガ会員さん向けにアンケート調査の協力をしたのですけれども、私たちシャーロックホームズは「つどいの広場」という親子が集まって遊ぶ場所をやっているのですが、その中でも私もママさんパパさんの高齢出産化は年々感じていたものの、なかなか介護のこととか親のことが心配だみたいな会話はあまり聞かれなかったので、当初その調査研究の話が来た時に、まあ理屈は分かるけど実際に(ダブルケアラーが)いるのかなみたいな、そんな半信半疑なところからスタートしたのですが、メルマガの調査で割と多く(ダブルケアラーが)いたんですよね。その過去の経験者の中には、例えばこのメンバーである植木さん。このアンケートに答えてくれていて、植木さん元々知り合いだったけれども、「え、そうだったんだ」みたいな、初めて知ることもあったので、確かに先生がさっきおっしゃった通り、子育て支援の場所にダブルケアラーは来られない。忙しすぎて来れないという実態と、あと、人には言えないんだなという、割と近しい人でもあまり他人に自分の状況を相談したり、ということをしていないんだなっていうのがすごく良く分かる機会になったんですね。

先生、最初この調査では一番下のお子さんが6歳未満の母親を対象として調査を行っていましたけれども、それが後々、学童に対する、例えば子どもが小学生であったりとか働きながら子育てしている母親に対してとか、だんだんと調査の対象を広げていく、いろいろなところからの調査をしていると思うのですが、その広げていったというのはどういう意味合いでやっていったのですか。

 

相馬:最初はですね、6歳未満の就学前の子育てと介護のダブルケアの調査から始めました。ところが調査を進めるにつれて、思春期の子育ての大変さとダブルケアが重なったりですとか、受験という子どもの非常に重要なタイミングの時に介護がかさなってしまう時など、ダブルケアの負担が高まるピークだと分かりました。

 

また、高校に行きますと経済的な負担も高まりますし、そこの介護との重なりという、子どもの成長とともにダブルケアの多様性というものもしっかり掴まなければならないというように思いました。

 

もう一つは介護の多様性ですね。介護というのはややもすればオムツを替えたりですとか、身体的ケアの意味で介護の意味が捉えられがちです。ただ様々な調査結果にもありますように、通院の付き添いや、介護保険をどういうふうに使うかというようなケアマネジメントと言われるようなことですとか、買い物の手伝いですとか、この辺りは渡邉先生が高齢者福祉のご専門ですのでお委ねしたいと思います。介護の多様性もしっかりつかんで、ダブルケアの多様性を把握する必要があるように思いました。

 

ソニー生命さんと一緒にダブルケアの実態調査をするようになったことも、ダブルケア調査研究が進展する大きなきっかけでした。横浜や京都など、様々な地域のご協力をいただいたダブルケアの調査をもう少し一般化してインターネット調査でソニー生命さんと共に、男性ダブルケアラー500、女性ダブルケアラー500、全国の方たちを調査対象として、大学生までの子どものいるダブルケアラーの実態をしっかり把握するということが1つの調査研究の中での大きな柱となってきました。

そして2023年11月にはコロナ禍を経たソニー生命さんと最新のダブルケア実態調査を終えました。

この2023年の実態調査におきましては、子育ての多様性についてもより配慮した調査設計にしました。健常児だけではなく、障害のある子どもの子育て、あるいは配偶者のケア、自分自身のケアというようなこれまでの育児と介護の同時進行という狭義のダブルケアに対して、それ以外の多様なケア、私たちでは広義のダブルケアも含めた上で、ソニー生命の2023年の実態調査を行いました。

 

:ソニー生命さんにはダブルケア月間も大変お世話になっておりまして、今回の月間の中でも調査のことに触れれれるようなコンテンツを設けたいと思っています。

ダブルケアってすぐに終わるものでもないので、調査を受けたときはお子さんがまだ乳児幼だったお母さんたちも、もう12年経って、子どもは大きくなっていてまだダブルケアも続いているという方もいらっしゃって、子どもが大きくなったから、手が離れたんじゃないの?って思われても、実は思春期だったりとか進学の場面で割と親がコミットして子どもを支えていかないといけないような場面で介護もあるというのがすごく負担だという話は、調査から知り合ったダブルケアラーの方とお付き合いが続ている中で出てくるんですが、負担の出てくる場所や度合いや種類が違ってくるっていうんですかね、なかなかその範囲(子どもの成長の範囲)で、こうすればいいああすればいい、でもないのかなっていうのがダブルケアの難しいところなのかな、なんて思いました。

ダブルケアラーが今後増えていくと、冒頭にもお話があったその東アジアの社会的リスクという言葉、この社会的なリスクというのはどんなものがあるのですか。

 

相馬:まず1つはダブルケアが少子化の1つの要因になっているということです。親の介護があるので2人目を諦める、3人目を諦めるといったような声もよく聞かれます。少子化対策が昨今、いろいろと議論が広がっていますけれども、この少子化対策を子育てやワークライフバランスの視点だけではなくダブルケアの視点からも捉え直す必要があるのではないでしょうか。またダブルケアがあるから働けない、といったような声もよく聞かれますし、実際に調査結果からも出ています。ダブルケアが貧困のリスクにもなっていることを考えますと、ダブルケアを1つの大きな社会的経済的な影響要因として考えて社会全体でダブルケアの視点から見直す必要があると考えます。

 

:ありがとうございました。では植木さんへバドンタッチします。

 

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